図1 ノーマルモードとミックスモード
米Analog Devices(以下、ADI)社は2009年3月、最大サンプリング周波数がそれぞれ2.5GHz、2.4GHzの14ビットD-Aコンバータ「AD9739」と「AD9789」を発表した。通信機器向けの同社送信用D-Aコンバータファミリ「TxDAC」のラインアップを拡張するもので、最高3.6GHzまでのRF帯の信号を直接生成できることを特徴とする。ワイヤレス通信機器、ケーブルテレビ、計測機器、軍事用電子機器などの用途を狙った製品である。
通常のD-Aコンバータでは、サンプリング周波数fsの0.5倍(0.5fs)までの帯域(1次ナイキスト領域)のデジタル信号をアナログ信号に変換する。それ以上の帯域には、折り返しイメージが生成されるので、それをアナログローパスフィルタによって遮断して、本来のアナログ信号(すなわち、0.5fsまでの信号)を得る(図1(a))。AD9789/9739も、通常の「ノーマルモード」では、そのように使用する。
それに加え、両製品は、ADI社が「ミックスモード(Mix-Mode)」と呼ぶ機能を備えており、1次ナイキスト領域の信号を減衰させ、2次ナイキスト領域(0.5fs~fs)、3次ナイキスト領域(fs~1.5fs)の信号を出力することが可能である(図1(b))。実際のシステムでは、D-Aコンバータの後段に配置するバンドパスフィルタによって、2次ナイキスト領域、3次ナイキスト領域のうちどちらかの信号を遮断して使用する。AD9739、AD9789のサンプリング周波数はそれぞれ2.4GHz、2.5GHzなので、最大3.6GHzの信号を生成することができる(AD9739は原理的には3.75GHzまで対応可能)。なお、ミックスモードの機能は、ADI社が2007年9月に発表した「AD974x」、「AD978x」から導入されている。
図2 基地局のアーキテクチャ
このミックスモードを利用することで、通信システム基地局のアーキテクチャを簡略化することができる。一般的な基地局アーキテクチャは、図2(a)のようなものとなる。それに対し、D-AコンバータとしてAD9739/9789をミックスモードで使用することにより、図中のローパスフィルタとミキサーを省略することができる(図2(b))。なお、2次ナイキスト領域と3次ナイキスト領域のどちらの帯域の信号を使うかによって、後段のバンドパスフィルタの特性は変更する必要がある。
AD9739は、100Ωの抵抗を内蔵したデュアルポートのLVDS(低電圧差動信号)インターフェースを備えている。デュアルポート方式は、デジタル信号を等価的に半分のレートで扱うためのものだ。制御インターフェースはSPI(Serial Peripheral Interface)。実装時のトラブルシューティング用に、単体でテスト信号を出力するセルフテスト機能も備える。出力電流は8.7mA~31.7mAの範囲で設定可能である。電源電圧は1.8Vと3.3Vの2電源で、最大消費電力は1.1W。
AD9789は、特にケーブルテレビの用途を狙った製品である。D-Aコンバータのコア部はAD9739と同じだが、DOCSIS(Data Over Cable Service Interface Specifications)に対応した信号処理機能を複数搭載している。具体的には、QAM(直交振幅変調)エンコーダや、インターポレータ、デジタルアップコンバータなどを集積している。これらを利用すれば、従来FPGAやASICで行っていた機能を同ICで行うことが可能になる。出力電流は20mAで、50Ωの負荷に対して0dBmの出力が得られる。1.5V、1.8V、3.3Vの3種の電源電圧で動作し、消費電力は1.7W。
AD9739とAD9789はいずれも量産出荷を開始している。AD9739のパッケージは160ボールのCSBGAで、1000個購入時の単価は43.69米ドル、AD9789のパッケージは164ボールのCSBGAで、1000個購入時の単価は53.10米ドル。
(飴本 健)