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基礎から学ぶRFスイッチ その性能指標と最新技術動向を理解する

[issued: 2010年2月号]

RFスイッチの分野では、電気機械式、PINダイオード、GaAsといった従来型に代わって、バルクCMOS、MEMS、SOSなどを採用した新しい製品が徐々に増えつつある。これらは、従来のスイッチに比べて占有面積が小さい、寿命が長い、といったメリットを持つ。ただし、こうしたメリットに目を向けるだけではなく、それぞれの仕様が要件に合っているか否かを正しく見極めることが重要だ。

by Rick Nelson

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SOIやMEMSは万能か

 大型のRFテスト装置では、その装置とテストの対象となる機器との間で、RF/マイクロ波信号を伝送する必要がある。同様に、マルチバンドの小型モバイル機器であれば、アンテナとアンプとの間でRF/マイクロ波信号を伝送することになる。このような伝送を実現する上では、さまざまなソリッドステートの実装技術を利用することができる。SOI(Silicon on Insulator)デバイスやMEMS(Microelectromechanical System)スイッチを提供するベンダーらは、2009年6月のIEEE MTT-S(Microwave Theory and Techniques:マイクロ波の理論および技術) International Microwave Symposium(国際マイクロ波シンポジウム)において、それらを強く売り込んでいた。そのほかに、スイッチを含めた高集積度のバルクCMOSデバイスを使用することもできる。

 では、どのような場合に、旧来の電気機械式スイッチやPINダイオードスイッチ、GaAs(ガリウムヒ素) FETスイッチの代わりに、これらの技術を使用すると効果があるのだろうか。ソリッドステートスイッチやMEMSスイッチは、電気機械式スイッチよりも、基板における占有面積が小さく、寿命も長い。また、SOIデバイスやMEMSデバイスは、GaAsデバイスよりもほかの部品との集積が容易である。だからと言って、SOIデバイスやMEMSデバイスを安易に選択してはならない。スイッチの選定に乗り出す前に、選択するデバイスの仕様が用途の要件を満たしているかどうかを理解する必要がある。

仕様のどこを見ればよいのか


図1 スイッチの各種仕様
インピーダンス不整合は、入力の反射を招き、スイッチの挿入損失(出力信号の減衰)を生じさせる(a)。また、アクティブなスイッチから、それに隣接するアクティブでないスイッチへと信号が結合することをクロストークと呼ぶ(b)。アイソレーション特性が劣っていると、スイッチがオープンの状態でも、入力から出力に信号が通過してしまう可能性がある(c)。
 スイッチを選定する際にはどのような仕様に注目すればよいのであろうか。例えば、インピーダンス不整合や、挿入損失、クロストーク、アイソレーションといった項目が挙げられる(図1)が、ここでは、押さえておきたいいくつかの仕様をピックアップして簡単に説明する。

■帯域幅
 まず、スイッチの帯域幅を検討する必要がある。最大動作周波数においても問題なく信号を通すことのできるスイッチを選択しなければならない。残念ながらスイッチの選定時には、例えばアンプの動作上限を判断する上で目安となる「−3dBの周波数ポイント」に頼ることはできない。特性インピーダンスや電圧定在波比(VSWR:Voltage Standing Wave Ratio)、クロストーク、アイソレーション(絶縁)など、ほかの仕様を考慮しつつ、許容可能な帯域幅の性能を決定する必要がある*1)

 併せて、低周波信号や直流を通す必要があるかどうかも検討しなければならない。通常、電気機械式スイッチやFETスイッチは低周波信号を通すが、PINダイオードスイッチや容量性MEMSスイッチは通さない*2)

■特性インピーダンス
 もう1つの主要な仕様としては、特性インピーダンスがある。集中定数モデルを利用し、伝送線の特性インピーダンスについて考えてみよう(図2)。同モデルでは、理想的な伝送線が相互接続する、伝送線の連続無限小の部分に、直列抵抗R、直列インダクタンスL、シャントコンダクタンスG、シャント容量Cがある。この場合、特性インピーダンスZ0は、以下の式で表される。

図2 伝送線を表す集中定数モデル



 ここで、直列抵抗とシャントコンダクタンスがゼロであるとすると、特性インピーダンスZ0は以下のようになる。


 信号の反射を防ぐためには、システムと同じ特性インピーダンスを持つスイッチを選択しなければならない。反射は反射係数によって決まり、この係数はSパラメータのs11と同じである*3)。s11が大きいとVSWRは悪くなる可能性がある。VSWRに関しては、吸収型と反射型のどちらのスイッチを選択するのかによって状況が異なる。吸収型のスイッチの場合、オフの状態でグラウンドに抵抗分路を設け、スイッチの位置(オン/オフ)にかかわらず、インピーダンスを適切に整合し、VSWRを低くする。反射型のスイッチは、VSWRが問題にならない用途か、インピーダンスを別の手段で制御する用途に使用される*4)

■挿入損失
 挿入損失を求める公式は、次のようなものである。


 ここで、ILは挿入損失、POUTとPINはそれぞれ出力電力と入力電力である。

 挿入損失は、以下のようにSパラメータで表すこともできる。


 右辺のSパラメータで構成される部分は、スイッチの挿入損失が入力の不整合には依存しないことを表す。分母の1−s11は、挿入損失を算出する前に、正規化された入力信号レベルから項s11で表される反射信号を差し引くことを表している。

 米National Instruments社のRF製品マネジャを務めるDavid Hall氏は、「挿入損失は重要だ」と述べている。同社は、RFスイッチマトリクスのテスト/計測製品ラインにおいてRFスイッチを使用している。スイッチは、使用する周波数帯において過度の減衰を生じさせることなく信号を通す必要がある。挿入損失が大き過ぎるスイッチを選択すると、増幅処理が必要となる。「これによってシステムが複雑になり、直線性誤差が生じる恐れがある」とHall氏は述べている。

■直線性
 増幅処理を適用しなくても、スイッチには直線性誤差が生じる可能性がある。直線性を示す仕様には、1dB圧縮ポイントとIP3(3次インターセプトポイント)がある。1dB圧縮ポイントを測定するには、テストの対象とするデバイスの入力でパワー掃引を行う。小信号応答を基準として、期待するレベルから出力が1dB下がった点が1dB圧縮ポイントである。IP3を測定するには、テストの対象とするデバイスに間隔の短いトーン信号を印加する。するとデバイスは、3次相互変調積を生成する。3次相互変調積の電力が望ましい信号電力と等しくなる点がIP3である*5)

■クロストークとアイソレーション
 クロストークは、アクティブなスイッチから、それに隣接する非アクティブのスイッチへと結合する信号の大きさを表す。一方のアイソレーションは、スイッチがオープンのときに入力から出力へもれてしまう信号の大きさである。

従来型スイッチのデメリット

 旧来の電気機械式スイッチ、PINダイオード、GaAs FETスイッチは、直線性やクロストーク、アイソレーションといった仕様の面で優れている。ただし、それぞれに欠点もある。

 まず、電気機械式スイッチはサイズが大きい。プリント回路基板上でかなりの面積を占めてしまう。

 PINダイオードには、p型/n型半導体領域の間に高抵抗の真性領域が存在する*6)。順バイアスを印加すると真性領域は導体として振る舞い、スイッチが閉じてRF信号が通過する。PINダイオードは、堅牢な小型デバイスであり、高電圧/高電流を扱うことができる。そのデメリットは、外部バイアス回路による直流バイアス電流が必要で、バイアスが高いほど挿入損失が低くなることから、消費電力を重視する電池駆動システムに使用するには問題があることだ。

 GaAsデバイスも、相変わらず広く使用されている。例えば、NECは、ワイヤレス用途向けにGaAsデバイスを提供している*7)。また、米RF Micro Devices社は2009年6月の国際マイクロ波シンポジウムにおいて、6GHzの対称型SPDT(Single Pole Double Throw:1入力2出力)スイッチ「RF3021」、「RF3023」、「RF3024」、「RF3025」を発表した。同社のGaAs PHEMT(Pseudomorphic High Electron Mobility Transistor:疑似格子整合高電子移動トランジスタ)技術を用いて製造されている製品である。RF3021とRF3025は高いアイソレーション性能を特徴とし、RF3023とRF3024は低い挿入損失性能と中程度のアイソレーション性能を特徴とする。米Skyworks Solutions社は2009年、0.1GHz〜6.0GHzで動作するGaAs PHEMTのSP3T(Single Pole Three Throw:1入力3出力)アンテナスイッチ「Sky13317-373LF」を発表した。米Hittite Microwave社は2009年8月、GaAs PHEMTでMMIC(Monolithic Microwave Integrated Circuit:モノリシックマイクロ波集積回路)スイッチモジュール「HMC-C071」を発表した。SP4T(Single Pole Four Throw:1入力4出力)、非反射型の製品で、マイクロ波無線、VSAT(Very Small Aperture Terminal:超小型地球局)、防衛/宇宙/航空、光ファイバ、ブロードバンドテストシステムなど、直流から20GHzまでに対応することが必要なアプリケーションをターゲットとしている。

 しかし、GaAs FETスイッチは、遮断コンデンサを形成する外部部品が必要であることと、ほかの部品との集積が困難な場合があるという欠点を持つ*8)
脚注:
  • ※1…Rowe, Martin, "Get to know RF switch specifications," Test & Measurement World, October 2007
  • ※2…"Microwave switches," Microwaves-101 Microwave Encyclopedia
  • ※3…Nelson, Rick, "What are S-parameters, anyway?" Test & Measurement World, February 2001
  • ※4…Corrigan, Theresa, "Ask the Application Engineer–34: Wideband CMOS Switches," Analog Dialogue, October 2004, Analog Devices
  • ※5…Kundert, Ken, "Accurate and Rapid Measurement of IP2 and IP3," The Designer's Guide Community, May 2002
  • ※6…The PIN Diode Circuit Designers' Handbook, Microsemi Corp, 1998
  • ※7…Iwata, N, and M Fujita, "GaAs Switch ICs for Cellular Phone Antenna Impedance Matching," NEC Technical Journal, March 2009
  • ※8…"RF Switch Performance Advantages of UltraCMOS Technology over GaAs Technology," Application Note AN18, Peregrine Semiconductor, 2007
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