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これまで、電子回路のクロック源としては、水晶やセラミックなどを用いた発振器が使われてきた。しかし、最近になって、高精度のシリコン/MEMS発振器が登場したことで、技術者にとっての選択肢の幅が広がった。本稿では、水晶、セラミック、シリコン、MEMSベースの各種発振器の特徴と、機器に最適な発振器を選択する上で必要となる知識についてまとめる。 Paul Rako |
発振器は、時計にはじまり、テレビ、パソコンに至るまで、タイミング信号を必要とするあらゆる電子機器に使用されている。「電子機器にとって発振器(Oscillator)は電源と同じくらい重要な部品だ」と主張する人もいるだろう。もし、電子機器内の発振器が故障すれば、システム全体の停止につながるおそれがあるからだ。
例えば、1972年に米カリフォルニア州フレモントで発生した列車事故は、制御ボード内の水晶発振器の故障が原因であった。発振器のタンク回路用コンデンサの容量値が不適切であったために、水晶振動子が過剰に駆動され、最終的にはオーバートーン周波数に達してしまったのである。その結果、駅に近づいた列車は、減速するはずが逆に加速し、その結果発生した衝突事故により多くの犠牲者が出た。
このような事態を避けるためには、適切な発振器を選択し、適切な回路設計を行うことが重要である。例えば、水晶振動子を利用する場合、それをそのまま使用して、発振回路を設計するケースは少なくなった。現在は、水晶振動子と一緒に、アンプやタンク回路用コンデンサなどを1パッケージにした市販の電子部品を購入して使用するのが一般的である。
デジタル電子機器は、内部回路を駆動し、回路間の同期を取るためにクロック源を必要とする。そして、このクロック源として一般的に利用されているのが発振器である。例えば、通信機器やサーバー機器には、単一のプリント配線板上に12個ものクロック源が必要となる場合がある。
従来、そうしたクロック源として一般的だったのは水晶発振器である。しかし、最近では、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)やシリコンベースの発振器がシェアを伸ばしている。また、周波数精度が低くても良い用途には、チタン酸ジルコニウム酸鉛(PZT)などを用いたセラミック発振器が使用されている。
こうしたさまざまな種類の発振器からどれか1つを選択する際の基準は、用途によって決まる。例えば、GPS(全地球測位システム)衛星には、システムのほかの部分との同期を保つためにppb(1ppbは10億分の1)レベルの精度が必要となる。このように、1ppbレベルの精度のクロック源が必要な場合には、非常に安定した原子スペクトルを持つルビジウムやセシウムなどと水晶発振器を組み合わせる原子発振器が最適である(図1)。
低価格であることを特徴とするセラミック発振器は、発振周波数が200kHz~1GHz弱で、タイミングの精度が重要ではない電子機器に適している。精度がppbレベルの原子発振器とは比べるべくもないが、セラミック発振器の精度はあまり高いとは言えない。その初期精度の一般的な値は0.1~0.5%で、さらにこの範囲は使用期間や温度変化により変わってしまう。一方で、セラミック発振器は、水晶発振器よりも起動が高速で、サイズが小さいことが長所となっている。衝撃や振動にも強い。
一般的なセラミック発振器では、許容誤差は±1.1%とかなり大きい。ただし、セラミック発振器であっても高級品であれば、車載LAN規格のCAN(Controller Area Network)向けの製品で±0.25%、USB 2.0などのバスインターフェース向けの製品では±0.3%といった許容誤差を実現している。
また、通信回路であるUART(Universal Asynchronous Receiver Transmitter)を利用するデジタル電子機器では、発振器の周波数から得られるボーレートが仕様の範囲内にあることを確認するために、誤差解析を行わなければならない。UARTを使用するのが組み込みプログラムコードを開発するときだけであれば、最終製品の製造時に、UARTに関連する発振器をセラミック発振器に変更することでコストを削減できる可能性がある。セラミック発振器を製造している代表的なメーカーには、村田製作所、米Oscilent社、米AVX社、TDK、パナソニックなどがある。
水晶やセラミックなどの振動子の代わりに、半導体製造技術でシリコン上に集積したRC(抵抗/コンデンサ)もしくはLC(インダクタ/コンデンサ)回路を発振回路として利用するのが、シリコン発振器である。シリコン発振器にも、価格に応じてさまざまな精度の製品が存在する。スイスSTMicroelectronics社などが、セラミック発振器と同程度の特性を持ちながら、それよりも小型で安価な発振器を製造している。同社の製品マーケティングエンジニアであるLouis Grantham氏は、「構造的に脆弱になりがちな水晶発振器に対し、シリコン発振器は堅牢である。加えて、ICは水晶振動子よりも製造が容易だ」と述べる。
水晶発振器は、圧電材料である水晶に電圧を加えることで周期的に発生する共振現象を利用して、正確な周波数を持つ電気信号を生成する。この周波数により、クオーツ腕時計のように時刻を表示したり、デジタル集積回路に安定したクロック信号を供給したり、無線通信における送信機と受信機の周波数を安定させたりすることができる。
ロッシェル塩の圧電効果を研究していた米ベル研究所のA M Nicholson氏と米ウェスリアン大学教授のW G Cady氏が、駆動回路上での水晶の共振を観測した1920年代から、水晶は無線通信で用いる周波数の生成のために使用されてきた*1)。また、水晶は、その結晶系に対して適切な角度でカットすることで、温度変化による影響を受けないゼロ温度係数を持つ振動子を得ることができる(図2)。
水晶発振器の発振源となる水晶振動子は、天然の鉱物である水晶から製造することができる*2)。しかし、原材料として天然水晶を使用していた第2次世界大戦以前には、結晶のサイズが限られていること、不純物を含まない水晶が得にくいことという問題があり、大規模な量産は難しかった*3)。今日では、水晶発振器のメーカーは、オートクレーブと呼ばれる3万ポンド/インチ2(psi)以上もの圧力をかけられる高温/高圧の反応炉を使い、大型で高純度の水晶を人工的に成長させて、水晶振動子をはじめとする水晶デバイスの量産を行っている(図3)*4)。
オートクレーブで、水晶の成長が完了するまでには数カ月を要する。その間に、地震が起きたり、発熱器への電力供給が短時間であっても低下もしくは遮断したりするだけで、水晶振動子の製造に適さないものになってしまう。水晶発振器の大手メーカーである日本電波工業は、米イリノイ州ベルビジアに人工水晶を製造する最新のオートクレーブを設置した。同社が、この最新設備を米国中西部に設置することを決定した理由は、その地域の電力網の信頼性が高く、地震が発生する可能性が低いからである。
同社のビジネスおよびアプリケーション開発担当ゼネラルマネジャを務めるCraig Taylor氏は、同社の手法を以下のように説明する。
「当社の場合、戦艦の大砲に関する技術から着想を得た巨大な容器の下側に、採掘した天然水晶を入れる。次に、人工水晶の核となる種水晶を、容器の上側に設置する。そして、炭酸ナトリウムもしくは水酸化ナトリウムの溶液を加え、容器内を高温/高圧にすることにより、すべての天然水晶が溶解して容器の上側に移動する。このとき、天然水晶に含まれていた泥や不純物はすべて容器の底に残ることになる。そして、溶解した水晶は、種水晶の上で、純度の高い水晶として析出し、成長することになる」。
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