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組み込みシステムを設計する上で有用なPC/104。この規格の後継となるものとして、パソコンで一般的に利用されるPCI ExpressやUSBを活用した複数の提案がなされている。本稿では、PC/104という規格の歴史を概観した上で、現在提案されている後継規格について紹介する。 Warren Webb |
PC/104は、約20年前に考案されて以降、その柔軟性と堅牢性から、組み込みシステム業界において好まれてきた規格である。しかし、一部の用途でより高いデータ転送速度が求められていることもあり、その後継規格が登場している。また、現在のデータ転送速度で問題のない機器の設計者も、最新のプロセッサのチップセットでは旧式のPC/104アーキテクチャのサポートが廃止されるため、問題に直面することになるだろう。
米Ampro Computers社は、1987年に、デスクトップ型パソコン用の低価格のプロセッサと、そのプロセッサで動作するソフトウエアを用いる組み込みシステム向けのアーキテクチャとして、PC/104の基本となる概念を考案した。PC/104という名称は、ベースになったPC/ATアーキテクチャと、搭載するISA(Industry Standard Architecture)バスの端子の数から同社が名づけたものである。同社は1992年、PC/104の最初の正式な仕様を発表した。
現在は、米国のPC/104 EmbeddedコンソーシアムがPC/104規格の管理を行っている。PC/104に準拠するボードには、ボードを積み重ねて(スタックして)接続するための「スタックスルーコネクタ」が採用されている。一般的なPC/AT互換のパソコンとは異なり、マザーボード、バックプレーン、カードケージなどは必要としない。スタックスルーコネクタによるボード間の接続は、劣悪な環境においても信頼性が高い。PC/104ボードは、4隅に取り付け穴を備えている。これらの取り付け穴により、スタックされた各ボードが固定されるため、システムに対する衝撃や振動の影響を最小限にとどめることができる。ボードのサイズは、3.6インチ×3.8インチ(約9.1cm×9.7cm)。スタックされるボードの間隔は0.6インチ(約1.5cm)となっている。
ISAバスはデスクトップ型パソコンでは使用されなくなった。しかし、組み込みシステムにおいてはまだ使用する価値がある。多くの組み込みシステムの設計者は、1世代前のプロセッサとすでにパソコンでは利用されなくなったISAバスに満足している。周辺機器を増設するためのボードは、そうした古い技術を用いているものの、シンプルかつ安価で、設計も容易であり、組み込みシステムの製品に求められる主要な要件をすべて満たしている。ISAバスのデータ転送速度は比較的低速であるため、ノイズやEMI(電磁波干渉)への対策も簡単である。しかし、根強い人気を保っている最大の理由は、既製製品の多くにこのアーキテクチャが採用されているため、設計者に多くの選択肢があるという事実である。現在でも、数多くの企業が、独自に安価なPC/104製品を製造している(別掲記事『PC/104の一般的な利用法』を参照)。
PC/104が登場して以降、その性能を向上させるために仕様を拡張する試みが多くの設計者により行われてきた。例えば、ISAバスをPCI(Peripheral Component Interconnect)バスへ置き換えることなどである。デスクトップ型パソコンにおいては、ISAバスからPCIバスへの置き換えがスムーズに進んだため、組み込みシステムの設計者たちがPCIバスをPC/104に追加しようと考えたのは自然な成り行きであった。PCIバスを利用できるようになれば、高性能の周辺機器や特定用途のハードウエア向けにデータ転送速度を高めることが可能になる。
PC/104 Embeddedコンソーシアムは1997年に、PC/104にPCIバスを追加する新たな仕様を発表した。正式名称はPC/104-Plusである。この仕様により、PC/104準拠のボードの設計者は、ISAバスのみ、PCIバスのみ、PCI/ISAバスの両方のうち、いずれかを選択できるようになった。しかし、PC/104-Plusでは、PCIバスを取り付けるための新しいコネクタを搭載する必要があり、ボード上におけるコネクタの占有面積を増大させてしまう。この問題を回避すべく、PC/104 Embeddedコンソーシアムは、ISAバスを除いたPCI-104も策定した。しかしながら、現在でも大本のPC/104が、PC/104-PlusやPCI-104よりも多く利用されている。
技術の進歩に遅れずに、日々進化を続けるデスクトップ型パソコンのソフトウエアに対応するために、業界団体をはじめとする複数の組織がPC/104の次世代版として3種類もの規格を提案している。それらには、PCI SIG(Special Interest Group)が策定しているPCIバスの最新規格PCI Express(PCIe)や、高いデータ転送速度と高度なボード間通信向けのUSB(Universal Serial Bus) 2.0が採り入れられている。これらの新しい規格は、いずれもスタック可能なPC/104ベースのアーキテクチャにおいて、かなりの性能向上をもたらす。その一方で、規格に準拠する製品間の相互運用性に乏しく、既存のPC/104に準拠する製品との互換性にもばらつきがある。
PC/104 Embeddedコンソーシアムは2008年初頭に、組み込みシステムにおいてPCIeバスを使用するための規格としてPCI/104-Expressを承認した(別掲記事『PCI/104-Expressのメリット』を参照)。PCIeバスの基本単位である「レーン」は、LVDS(Low Voltage Differential Signaling:低電圧差動信号)による2本の信号パスと、各方向に5ギガトランスファ/秒の速度で通信する定電流ラインドライバから成る。そして、複数のレーンを利用することにより、必要とされるデータ転送速度まで増やすことが可能になる。PCIeでは、このレーンをまとめたものを「リンク」と呼んでおり、1つのリンクに対して利用できるレーンの数は、1、2、4、8、12、16、32本が定義されている。PCI/104-Expressでは、1レーン×4リンクと16レーン×1リンクのみをサポートしている。
スイスDIGITAL-LOGIC社は、シングルボードコンピュータ「MICROSPACE MSM200シリーズ」など、PCI/104-Expressに準拠する製品をいくつか提供している(写真1)。それらのボードは、動作周波数が最高で1.6GHzという米Intel社のプロセッサ「Atom」を、オンボードRAM用のいくつかのオプションとともに搭載している。2次電池で動作するモバイルコンピュータ、映像を表示する画面付きの情報端末、音楽演奏機能を持つゲームシステム、計測機器、通信機器などのアプリケーションをターゲットとしている。
MSM200シリーズは、高速なCPU以外に、イーサーネット、オーディオコントローラ、RS-232インターフェース×4、シリアル方式のディスクインターフェース×2、パラレル方式のディスクインターフェース×1など、上記のアプリケーションが求める、標準的なパソコンが備えるインターフェースをすべて提供する。価格は、1ユニット(100個)当たり364ユーロ(約4万9800円)からである。
Christine Van de Graaf 米Kontron社
組み込みシステムの設計要件として、コストはもちろん重要である。しかし、開発期間、システムのサイズ、性能といった要素も考慮する必要がある。そうした意味で、PC/104やPC/104互換のシステムは、現在でも有効な選択肢になり得る。なぜなら、PC/104は、カスタマイズをほとんど必要としないハードウエアの設計に最適であるとともに、小さなフォームファクタで高い性能を提供することを目的として発展した安定なプラットフォームであるからだ。
PC/104がプラットフォームとして安定していることから、組み込みシステムの設計者は、ボードメーカーの提供するPC/104に準拠した製品を数年前の製品と入れ替えるだけで、飛躍的に性能を向上させることが可能である。ボード上の同じ位置に部品が配置されているということが、おそらくこの業界標準の製品を使用する最も重要な利点の1つだ。そして、このことが、古いPC/104から新しいPC/104アーキテクチャへの設計の改良を簡素化してくれる要因にもなっている。
また、一部のボードメーカーは、各モジュールの機能に一貫性を持たせているが、PC/104を利用したシステムを設計する上で、必要となる配線を追加しても、筐体の内部は複雑にならない。PC/104における信号の伝達は、プラグインコネクタではなくピンスルーを使用し、配線により外部へと送る形で行われる。この方法の代わりに、独自のプラグインコネクタを持つキャリアボードを使用する方法もある。
一般的に、PC/104のスタックは、最大6枚のボードで構成される。CPUボードは、すべてのコネクタとともに、ベースボードの上に配置する。もし、CPUボードに設計者が求める機能が欠けている場合には、ほかのボードをその上に配置することになる。その上にグラフィックスのボード、その上に音声のボード、そしてまたその上にはイーサーネットやFirewireのボードを搭載するといった具合である。もちろん、より高度なボードを使用すれば、スタックの枚数を減らすことができる。各種I/O機能を内蔵したボードもあるので、その場合はグラフィックス、イーサーネット、音声用などに個別にボードを用意する必要はない。より機能的で適切なボード選択を行うことにより、スタック数を2枚程度にまで減らすことが可能である。
PC/104は、例えば低予算である程度の性能を実現すればよいといったケースにも向いている。PC/104に準拠するボードを使ってシステムを設計する場合、設計者は同じ技術を使用し続ける傾向がある。予算が厳しく、システムのサイズを小さく抑えなければならない場合、一般的に同じプラットフォームを使用し続けるには何らかのトレードオフが必要となる。しかし、PC/104は、それをベースとした新規格の存在により、ポテンシャルを高めている。PC/104を利用したボードがすべて同じような製品というわけではなく、より高度なボードも存在するのである。
Steve Moore PLX Technology社
多くのSFF(Small Form Factor)タイプの組み込みシステムでは、バックプレーンやカードケージなしでシステムやI/Oの拡張を可能とするために、スタック可能なアーキテクチャが採用されている。スタック可能なシステムの配線は、この16年間でISAからPCIへと移行してきた。さらに、現在はPCI/104-Expressという規格が登場したことにより、組み込みシステムの設計者はPCIe技術を利用しやすくなった。コストや消費電力をより低く、ボードを小さく、ケーブルやコネクタを少なく、データ転送速度を高く、遅延を小さくしつつ、既存のPCIソフトウエアとの互換性を維持することができるので、PCI/104-Expressへの移行は容易である。
パソコン、サーバー、ワークステーションなどにPCIeが採用されるようになったことから、PCIeに対応する多種多様なチップが製造され、周辺機器の数も急増している。そのため、PCIeを利用するために必要なコストは著しく低下した。データ転送速度が250メガバイト/秒というPCIeの1レーンのリンクでは、送信ペアと受信ペアを1つずつ、合計4本しか信号線を使用しないため、消費電力も少ない。これに対して、32ビットのPCIバスは、100本以上のI/Oを必要とし、データ転送速度は最大125メガバイト/秒である。I/Oの数が非常に少ないことから、PCIeチップ上の端子数も少なくなる。これにより、ボード上の占有面積が小さくなり、コネクタの数も減る。
2.5ギガトランスファ/秒で動作するPCIe Gen 1のスイッチと、5ギガトランスファ/秒で動作する同Gen 2のスイッチはすでに利用されており、入手も容易である。米PLX Technology社などが販売しているこれらのスイッチを利用することにより、PCI/104-Expressベースのシステムの内部において、さらに高性能な相互接続用ファブリックを構築することが可能である。
PCI/104-Expressでは、1レーンのPCIe Gen 1のリンクを4本必要とする。それぞれのリンクが250メガバイト/秒で転送可能で、その帯域幅は、PCI/104が使用する32ビット/33MHzのPCIの2倍に相当する。PCIe Gen 2のスイッチは、自動的に同Gen 1へとダウンリンクする。そのため、PCIe Gen 2のスイッチを使用することもできる。これらにより、スタック可能なSFFシステムのI/Oの帯域幅は著しく増大し、より高速なファブリックを実現できる。さらに、PCI/104-Expressは最大4個の高速I/Oチャンネルを提供しているが、PCI-104とは異なり、チャンネルは単一のバスで帯域幅を共有する必要はない。また、PCI/104-Expressでは、16レーンのPCIeリンクも定義されており、PCI32/33規格の32倍以上ものデータ転送速度を実現することも可能である。
USBやGbE(ギガビットイーサーネット)といったほかのI/Oを使った相互接続も存在するが、いずれもPCIeの高いデータ転送速度と低い遅延には匹敵しない。例えば、USB 2.0は、40メガバイト/秒までしかサポートしておらず、最も低速な1レーンのPCIe Gen 1リンクの250メガバイト/秒という速度と比較しても、劣っていることがわかる。また、GbEは、125メガバイト/秒で、遅延オーバーヘッドも大きい。これらに対して、最も高速な16レーンのPCIe Gen 2のリンクは、最大10ギガバイト/秒のデータ転送速度を持つ。
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