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Roy Gardner |
ずいぶん前のことだが、筆者はカリフォルニア州サンタアナに本拠を置くAll American Racers社のレーシングチームで働いていた。ある日、そのチームが新規に設計したインディカーのテスト走行を行うことになった。その際、車とピットの間を結ぶ460MHz帯のFM無線通信装置のテストも併せて行うことになった。筆者に与えられた任務は、無線通信を妨害する電磁干渉の原因の究明と、対策の検討を支援することだった。しかし、実際には、時速180マイル(約290km/h)で走行する車の轟音にかき消され、干渉の問題は認識すらできない状態だった。そこで、騒音が比較的少ない場所に移動し、そこにあったテーブルに無線装置を置いて、ドライバーと技術スタッフの間の通信を妨害するノイズの原因を究明することにした。
干渉の問題について、さまざまな検討を行ったのだが、筆者は、車の金属製パネル(外板)は丈夫な線材でグラウンドに接続されていることに気付いていた。また、前輪のベアリングカップの下にある電気接点は、電磁干渉を防ぐよう銅製でスプリング付きの構造になっていることも把握していた。さらに、車体に無線機を装着する方法としては、ほかの電子機器の場合と同様にクッションを用い、エンジンからの猛烈な振動によって破損しないよう対策が施されていることもわかっていた。こうした事実を認識しつつ、筆者は、アマチュア無線の教科書に記載されていた一節も非常に気になっていた。真意はわからないが、それは「自動車のタイヤから静電気が生じないようにするには、タイヤの内側に“タイヤの粉末”をまけ」というものだった。
われわれは、ヘッドセットを装着して、ドライバーと技術スタッフのやりとりに耳を傾けた。その結果、静電気やFM干渉、また風による騒音に起因する症状も少しは認められた。しかし、筆者には、主たる問題は単純にエンジンの排気口からの騒音であるように感じられた。なぜなら、ドライバーのヘルメットには、軍用機のパイロットが用いるマイクロホンが装着されていたからだ。これは騒音の除去性能に優れたものである。また、ドライバーはマイクロホンを極力、口の近くに持っていっていた。それでもなお、騒音が許容レベルを上回っていたのだ。
われわれは、さまざまな観点から議論を繰り返した。その結論として、ドライバー用のマイクロホンを使わないことにした。その代わりに、ハンドルに無線機を取り付け、その送話ボタンを押してから話すことにしてもらった。それでもノイズの問題は除去できなかった。
どういうわけか、問題の無線機は、ドライバーの声よりも、エンジン音のほうをより高い感度で拾うようだった。予備の無線機をテーブルに置き、そのテーブルをハンマーで叩いてみたところ、同様の症状が起きた。そこで、無線機を分解して内部の回路を取り出し、それらをテーブルに置いて同様の振動を与えてみた。その結果、PLL(Phase Locked Loop)回路に問題がありそうだとの推測に至った。
さらに調査を進めた結果、PLLを利用した無線機の多くは、通常なら無視できるレベルのマイクロフォニックノイズ(回路素子の機械的振動に起因するノイズ)を発生しやすいことが判明した。われわれのインディカーでは、8気筒のターボチャージエンジンが毎分1万2000回転で動作する。PLLを利用した無線機は、このエンジンから、少なくとも2.5フィート(約76cm)以上は離して使用しなければならないようだった。
われわれは、ためしに、水晶発振器を使用した旧式の無線機を使ってみた。すると、ノイズの問題は発生しなかった。そのとき、われわれの上司は、重要なノウハウが得られたと感じたらしく、ほかのチームにはそのことを内緒にしておくよう指示した。こうして問題は解決したのだが、例の“タイヤの粉末”に関する疑問は残ったままだった。
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