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Steve Lubs 米国国防総省 |
技術者になってまだ間もないころ。筆者は振幅変調、周波数変調あるいは位相変調用に、数種類の信号復調器を設計していた。そのときにベースとして使用していた部品はアナログマルチプレクサとディスクリート構成の積分器だった。その当時、筆者の上司は、「アナログ技術からデジタル技術への転換」に取り組んでいるところだった。筆者と上司はそれら2つのベース部品に相当する機能をデジタル技術によって構成する簡単な手法がないかと模索していた。そうした努力を4カ月間にわたって続けたが、結局は上司の判断によって中止することになった。その間に各種の実験に使用した部品のほとんどはほかのプロジェクトで使われることになり、残りの部品はあるMAC(multiplier accumulator:積和演算器)ICを除いてすべて廃棄した。
捨てずにとっておいたMACは特注品であり、TTL(transistor transistor logic)タイプで、8ビット×8ビットの乗算回路、64ビットの出力回路を備えたものだった。筆者の上司は、そのMACをほかのプロジェクトで利用できるとは考えなかったが、筆者自身は何か有効な利用法があるのではと思い、保管しておくことにしたのだ。
ある日、このMACのデータシートを眺めていて、1つの利用例を思いついた。それは、64ビットの高速カウンタを作るというものだった。そのアイデアを上司に伝えたところ、彼は筆者の顔をまじまじと見つめ、「大き過ぎるし、電力も多過ぎる。しかも、価格も高い」と警告した。そして、「ほかに、もっと気の利いた用途はないのかね?」との質問を投げかけた。
その反応に多少ひるみはしたものの、筆者はさらに考えを進めて設計を行った。テストの結果、設計したカウンタの動作は完璧だった。しかし、その結果を同僚に見せると、初めは驚いた様子だったが、最後は「それだけ?」との反応だった。職場では張り合いになることもなくなり、そのアイデアを米EDN誌の『DesignIdeas』に投稿することにした。
程なく、同コーナーに筆者が書いた記事が掲載されることとなった。それによって上司から賛辞らしきものが得られたわけではないが、気にはならなかった。その記事の掲載号が発行され、それからしばらくは達成感に浸っていた。その後、筆者はEDN誌の編集部に宛てられた1通の手紙を目にすることになった。その手紙は、「国防省は税金を無駄使いしている」と指摘し、その好例として筆者の行為を挙げていたのだ。筆者はそれに反論しようとも思ったが、それより、アイデアをもっと洗練されたものに改善するほうがよいと思い直した。ほかのプロジェクトに応用すべく努力したのだが、上司からは相変わらず「もっと良い案はないのか?」と言われるだけだった。そのため、この問題とかかわるのはやめにし、その回路のことは忘れることにした。
それからほぼ1年がたったころ、ある技術者から手紙でその回路の動作についての質問を受けた。彼はNASA(アメリカ航空宇宙局)の人工衛星に用いる装置の設計者で、64ビットのカウンタを必要としていた。彼によれば、筆者が設計した回路なら、「16端子のICを16個使用する代わりに100端子のICを1個使用すれば済むことになる。基板上の実装面積が削減できるとともに、そのレイアウトも単純になり、試験が簡略化でき、さらには低コスト化が可能になる」というのだ。
筆者のアイデアは職場では評価されなかった。しかし、確かに筆者のアイデアが1人の技術者を助けたのだ。この事実に満足感を覚えた。その後、いくつかの記事をDesignIdeasに投稿したが、それらもだれかの役に立ったと信じている。というのも、このコーナーの記事に、筆者自身が助けられたことがあったからだ。例えば、会議や資料作成で疲れたとき、意欲のかき立てられるような新たな刺激が欲しいときに、何度も励まされたのである。
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