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富士通研究所は2008年4月、2008年度の研究開発戦略を明らかにした。注力する分野は、「グリーンテクノジ」、「センサーテクノロジ・システムソリューション」、「次世代端末&サービス」の3つ。1つ目のグリーンテクノロジに注力する理由について、富士通研究所の代表取締役社長を務める村野和男氏は、「二酸化炭素(CO2)排出などの環境問題に注目が集まっている。環境は、社会的な課題として重要なものなので、当社もここに注力する。また、CO2排出権が売買されていることなどから考えて、環境は新しい事業領域にもなり得る」と説明した。
2つ目のセンサーテクノロジ・システムソリューションとは、新たなセンサー技術や新たなセンサーの用途を開発することを表す。これについて村野氏は、「センサー技術の進歩によって社会のデジタル化/情報化が促進される。これにより、IT技術の利用分野の裾野が広がることを期待している」と説明した。3つ目の次世代端末&サービスに注力する理由について、村野氏は、「パソコンや携帯電話機は広く普及したが、その市場はすでに飽和している」と指摘。次世代端末と新しいサービスを提供することで、新たな需要を生み出す考えだ。
これら3つのうち、富士通研究所は、特にグリーンテクノロジに力を入れるという。高効率のデバイスや省電力化を実現したネットワーク/データセンター、環境に貢献するソリューション、センサー技術などを開発し、統合的にCO2の排出量削減を目指す。
また、富士通研究所は、研究開発のロードマップも同時に発表した。それによると、IT分野のサービス/ソリューションでは総合的な最適化を行い、効率的な経営を支えるシステムの実現に取り組む。例えば、IT分野では、SaaS(software as a service)やクラウドコンピューティング、オーガニックコンピューティング、ペタスケールコンピューティングの研究開発を進め、自らを制御して動作し続ける自律型コンピューティングの実現を目指すという。
研究開発の戦略に加え、具体的な開発成果も何点か紹介された。ここでは、そのうちの3つをピックアップして紹介する。
まず、グリーンテクノロジに向けた開発成果として、「データセンター向けリアルタイム多点温度測定技術」が発表された。これは、光ファイバを用いてデータセンターの温度分布をリアルタイムで正確に測定する技術である。この技術を用いることで、1本の光ファイバによって1万個以上の観測点(10kmの光ファイバを用いた場合)を同時に測定することが可能になり、データーセンター内の温度分布を視覚化できる(図1)。さらに、同技術と空調制御システムを組み合わせることにより、室内の温度分布に対応したきめ細かな空調制御が可能になり、データセンターの消費電力の削減も図れるという。
この技術には、物質の温度に応じて強度が変化するラマン散乱光を利用している。波長が1064nmの赤外線レーザーを用いたパルス幅が100μsの光を光ファイバに入射してその温度を測定するというものだ。これ自体は既存の手法であるが、位置分解能が低いという課題があった。この課題に対して、富士通研究所は実際の光ファイバの敷設状態などを基に測定結果を補正する技術を導入した。その結果、1mという高い位置分解能が達成できた。
富士通研究所によれば、データセンターにおける消費電力の内訳は、45%がIT機器、40%が空調設備、13%が電源設備、2%が照明機器によるもので、注目すべきは空調設備による消費電力の多さだという。同社基盤技術研究所の所長を務める矢野映氏は、「現在のデーターセンターでは、サーバーラック内の温度を下げるために、その外部を過剰に冷却している」と消費電力削減の余地があることを指摘。「適正な温度分布を実現すれば、空調設備の電力を削減できる」(同氏)とその有用性を説明した。
今後、位置分解能の向上と温度分布情報を用いた空調設備の運転を最適化する手法を検討し、2009年度までに、空調設備における電力管理の基本技術の確立を目指すという。
富士通研究所が基盤技術と位置付ける分野の開発成果に、次世代の半導体材料として盛んに研究されているカーボンナノチューブ(CNT:carbon nano tube)と、炭素原子によるシート状の物質であるグラフェン(graphene)がある。同社は、CNTとグラフェンが結合した複合構造体を自己組織化によって形成する技術を開発したと発表した。複合構造体は、複数のCNTが直立して並んだ上部をグラフェンが覆うように結合したものである(図2、図3)。
CNTの構造は線上であるため、軸方向に対して電気伝導性と熱伝導性が高いが、軸と垂直の方向に対してはそれらが低いという特性を持つ。一方のグラフェンは平面構造を成しており、面方向に対して電気伝導性と熱伝導性が高い。
今回、開発された技術で形成された複合構造体は、CNTの先端部分が均一にグラフェンに結合し、かつ表面のグラフェンがほぼ平坦であるため、垂直方向と水平方向のどちらに対しても高い電気伝導性と熱伝導性を備えると見込まれる。この特性を生かし、半導体チップ内部の接続手法などへの応用が期待できるという。
また、従来の手法では、グラフェンを合成するために700℃以上の高温を要していた。それに対して、新技術では従来の半導体の製造工程で用いられる温度に近い510℃でグラフェンを合成することができる。これにより、グラフェンの電子デバイスへの応用が実用レベルに一歩近づいたという。
富士通研究所で主任研究員を務める佐藤信太郎氏は、今回の技術を発見した経緯を次のように語った。
「シリコンウェーハ上にCNTを自己組織形成させようと真空室でCVD(chemical vapor deposition:化学気相成長)を行っていた。すると、本来は真っ黒な物質であるCNTが形成されて光を反射しなくなるはずが、表面に光を反射する物質が形成された。当初、CNTが形成されないため実験が失敗したと思ったが、詳しく調べたところ、表面に光を反射するグラフェンが形成されていた。さらにその下部に、CNTが直立して並んでいることが判明した」。
今後、富士通研究所では、この複合構造体の形成機構を解明し、詳細な物性を明らかにするとともに、その特徴を生かした電子デバイスの開発を目指すという。
IT分野のプラットフォームに関する開発成果として、ウェブアプリケーションを自動的に検証する技術が紹介された。これは、富士通研究所と米Fujitsu Laboratories of America社によって開発されたウェブアプリケーション向け品質保証の基礎技術である。Javaで実装されたウェブアプリケーションに対して、処理すべき業務の規則(以下、業務仕様書)を入力し、自動的にそのアプリケーションの動作検証を行うというものだ。具体的には、ウェブアプリケーションと業務仕様書から網羅的なテストのシナリオを生成し、それを自動的に実行しながら動作検証を行う。開発者が検証のためのシナリオ/データを作成する必要がないので、人手を介することによる検証の抜けやムラの排除と検証時間の削減が行えるという。
また、ウェブアプリケーション内の変数を数値に置き換えずに検証する「シンボリック検証」が可能であるため、実際に数値を入力することなく、すべての入力条件を網羅したのと等価な検証が行える。これにより、従来のテストでは発見が困難だった不具合の検出が可能になるという。これは形式検証(formal verification)技術を利用したもので、例えば分岐命令から境界値を導き、その境界値を中心に検証を行うといった数学的手法が適用されている。
従来の形式検証は、小規模なプログラムに対してなら適用できたが、業務系のウェブアプリケーションのような規模の大きいプログラムに適用することはできなかった。富士通研究所らの技術では、ウェブアプリケーションを業務処理(ビジネスロジック)、画面処理、データベース処理の3つに分割し、業務処理に対して形式検証を適用した。これにより、大規模なウェブアプリケーションでも、形式検証のメリットを生かすことができた。
この技術を、実際のウェブアプリケーションに適用した結果、検証作業のうち30~50%を自動化できた。また、1000個以上のテストシナリオを適用したのと同等の検証が行えたという。
今後は、富士通グループ内の実際のプロジェクトに適用して試験を行うとともに、業務仕様書の入力の容易化や解析に要する時間の削減を図ることによって実用化を目指すという。
(小野 明久)
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