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John Wendler/Ray Tremblay 米Tyco Electronics社(M/A-Com Wireless Systems社) |
SDR(software defined radios:ソフトウエア無線機)は、送信モードや送信波形を任意に変更できる高い柔軟性を備えている。そのため、次世代の移動体通信を担う技術としての期待も集めている。本稿では、中程度の帯域に対応するSDRのフィルタ回路を簡素化する方法を紹介する。
図1にソフトウエア無線機における送信系の構成を示した。RF搬送波(キャリア)または送信機IF(中間周波数)信号は、直交変調回路に入力される。その変調出力は、周波数変換回路、あるいは増幅回路に入る(システムの設計に依存する)。DSPについては、本稿では、ベースバンド信号処理として、実数部と虚数部から成る複素信号を対象とするとしよう。このDSPに入力されるのは、音声をマイクロホンで拾ってA-D変換した信号や、コンピュータから送出されるデータなどである。信号の送出元が何であれ、DSPは入力データに対して一連の数値計算を施し、フィルタ処理や信号特性の調整、データに対するパケット処理を行い、最終的にはI/Q変調データに変換して出力する。この出力データは、帯域が中程度の場合、2チャンネルのΔΣ変調方式D-Aコンバータによってアナログ信号に変換され、さらにフィルタ処理が追加される。このフィルタ処理は、直交変調回路で用いられる一対のミキサーのために必要となる。ミキサーからの出力には、入力ベースバンド信号に含まれるノイズがそのまま重畳されるからだ。
このノイズは厄介なものである。例えば、FCC(Federal Communications Commission:米国連邦通信委員会)の規定では、地上モバイル無線などの用途に対して、周波数マスク(spectral mask)あるいは隣接チャンネル電力比(adjacent channel power ratio)のスペックが定められている。
こうした規定によって、使用可能な周波数範囲が制限されるが、その詳細はチャンネル帯域幅と送信周波数に依存して異なる。とはいえ、規定の要点は変わらない。つまり、隣接するチャンネルに対して干渉しないように送信機を制限する必要があるということだ。周波数マスクの規定に合致させるのは法的に必要なことであり、その試験を通過することによってのみ無線機を販売することが可能になる。
周波数マスクの一例として、図2に47 CFR 90.210 Gの規格を示す。この図において、X軸はチャンネル中心周波数からの周波数変位、Y軸は中心周波数(無変調時のキャリア周波数)の出力を0dBとした場合の出力電力を表す。この規定は、チャンネル間隔が25kHzで、許容信号帯域幅が20kHzの800MHz SMRS(specialized mobile radio service)に適用される。
この規定に対する試験では、まず中心周波数の無変調キャリアを送信し、その送信電力をY軸のピーク位置に合わせる。続いて、変調処理を施す。これにより周波数分布が広がるが、その広く分布する各周波数の電力が、すべて規格のライン以下に収まっていなければならない。
図2を細かく見ると、いくつかの重要なポイントに気付くだろう。無変調キャリアのプロットでは、サンプリング周波数の影響が中心から±19.2kHz離れた周波数ポイントに見える。変調 キャリアに関しては、ΔΣ変調方式D-Aコンバータ内のフィルタの効果により、約±10kHzの周波数ポイントで急峻な減衰が見てとれる。また、±12kHz近辺でわずかに増大して、それから徐々に減衰する傾向は、高出力アンプの非直線性に起因している。
中帯域SDRの設計においては、多くの場合、ΔΣ変調方式D-Aコンバータからのシングルエンド出力を直交変調回路用の平衡入力(バランス入力)信号に変換する必要がある。また、D-A変換に起因する高周波ノイズを低減し、周波数マスクの規定を満足するようにするには、D-Aコンバータの後段にフィルタを挿入することが望ましい。こうしたことよりも面倒なのが、D-Aコンバータからのコモンモード/差動モードでの最適な出力電圧が変調回路に必要な電圧条件とは異なることだ。 前述した条件のすべてを満足し、I/Qそれぞれのチャンネルに2段のフィルタ回路を構成するには、通常のアプローチでは4個のオペアンプを使用する必要がある。また、そのようなフィルタ回路を構成するに当たっては、直交変調回路としてのキーとなる性能指標であるキャリア/片側サイドバンド抑圧比がベースバンド周波数に依存して悪化しないように、厳密に特性をマッチングした部品を各チャンネルに使用しなければならない。
この問題を簡素化するのが、本稿で紹介する方法である。具体的には、米Linear Technology社の「LTC1992」を使用してフィルタ回路を1段で済ませるというものだ。これには、同製品のデータシートに記載されている完全平衡化のアプローチが利用できる*1)。しかし、実際には完全平衡化のアプローチも用いないで済む。
図3に示したのが、完全平衡化のアプローチを用いずに構成したフィルタ回路である。この回路では出力チャンネル間での位相と振幅のバランスが極めて良好になり、部品の特性のマッチングに対する条件も緩和される。LTC1992の2番端子への入力により、コモンモード出力電圧を所定の値に合わせ、入力抵抗経由の8番端子への入力電圧によってD-Aコンバータ出力の中間レベルを設定する。入力電圧とD-Aコンバータの中間電圧との間にミスマッチがあると、出力振幅が非対称になるが、この問題は7番端子にコンデンサを接続することで対処する。図のフィルタ回路は単一ポールの受動回路と反転サレンキー型フィルタとをカスケード接続したものだが、ほかの構成も適用可能である。
図4に、グラウンドを基準とする正側出力の周波数特性の計測結果を示す。DCにおける6dBの減衰は、差動出力の片側だけを評価したため生じているものであり、平衡出力として評価すればゲインは0dBになる。図5は、正負各出力間での振幅、位相の理想特性(振幅が同一で位相が180゚反転)からの偏差を表す。300Hzから3kHzの範囲での偏差は、振幅が0.1dB以下、位相が0.1゚以下である。50kHzでも偏差は振幅が-0.3dB、位相が1゚と小さく抑えられている。
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